大阪地方裁判所 昭和51年(モ)7826号 判決
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【判旨】
三そこで、本件解雇の効力について順次判断する。
1 労働協約違反の主張について
会社には約一五〇名の従業員のうち一一四名をもつて組織する旭東電気労働組合があり、申請人田中は執行委員として、同谷は常任委員としていずれも右組合員であつたこと、そして会社と組合との間で労働協約が締結されていることは当事者間に争いがなく、右労働協約一〇条(解雇基準)には、「組合員が次の各号の一に該当するときは解雇する。(1、2号省略)8号、事業の休廃止、設備の変更又は縮少の理由により事業上止むを得ないとき、但し、この場合人員及びその一般基準について組合と協議し、慎重な態度をもつて決定する。」旨規定があるところ、申請人らは、右条項に基づく本件整理解雇について会社と組合との間で協議がなされていない旨主張するのでこの点について検討するに、会社は石油危機に始まる不況対策としてパートタイマーの解雇、分工場の閉鎖、諸経費の削減及び役員・管理職の賃金カツト等を実行してきたがその効を奏さなかつたため、昭和四九年一二月二九日頃から第二六期事業年度下半期の計算上の予想損失額を主たる理由として会社首脳部の間で人員整理について検討され始め、同五〇年一月一六日の労使協議会において突然組合に対し本件人員整理案を発表したことは前記認定のとおりであるところ、<証拠>を総合すると、次の事実が一応認められ、他に右認定を左右するに足りる疎明はない。
(一) 昭和五〇年一月一六日の労使協議会において会社から本件人員整理の申入れを受けた組合では、直ちに同日夕刻から執行委員七名、常任委員六名をもつて常任委員会を開催して検討したところ、会社の企業努力の要否や合理化案の当否についての議論は出ないまま、また、申請人らの一両日は考慮すべきであるとか、組合員の意思の確認が先決であるとかという趣旨の意見は排斥されて、結局同日午後一一時過ぎ頃、組合としては会社の申入れを受け容れる方向で意思を固め、これを職場討議に提案するが、その際でも組合員の意向をその方向に持つていくように指導していくのが妥当であるとの意見が一一名を占め(反対一名申請人田中、留保一名申請人谷)、組合の今後の方針としては会社に対して再就職の斡旋を促したり、再雇用の場合には退職者を優先的に採用せしめるようにしたり、或るいは希望退職者にも指名解雇者にも等しく退職金の特別加給を支給させる等の条件闘争で臨むことにする旨を決議した。
(二) そこで、同月一八日午後五時から常任委員の司会により各職場において各組合員が職場討議を行ない、会社の申入れについて討議討論を重ねた後、引き続き同日午後七時頃から各常任委員が各職場討議の結論を持寄つて再度常任委員会を開いたが、その折にも、職場討論のまとめとして、会社の申入れを受諾することを前提としたうえで、希望退職の期限の延長、指名解雇に関する秘密の厳守及び再就職の斡旋の三点について会社に対し要望すると共に、遅配になつている賞与の支給に関する件その他六項目について質問することを確認するに留まつた。
(三) 組合は会社側に対し、同月二〇日それぞれ開催された三役交渉及び労使協議会において、右三点の申入れ及び七項目の質問事項を提出し、会社側はこれに回答したが、希望退職者の員数が募集人員に充たない場合の被解雇者の人選については、右三役交渉の席上組合側からその点については会社に一任するほかはないこと、しかし、客観的基準で且つ秘密裡に実施されたい旨の発言があつたにすぎず、また労使協議会においては話題にすらならなかつた。
他方、同日組合では労使協議会の後に報告集会を持ち、続いて職場討議の結論をもとに常任委員会が開かれたが、その際にもやはり会社側の提案を受け入れて条件闘争に移るべきであるという意見が大勢を占めた。
(四) さらに、翌二一日の労使協議会においても、議論は専ら会社の経営責任の問題や希望退職者に対する特別加給の件等に集中し、指名解雇が行われる場合の人選や基準については労使いずれの側からも議題にされることはなく、続いて開催された報告集会及び常任委員会においても右人選等については何ら触れられることのないままに、翌二二日には臨時組合大会が開かれ、執行部の提案した条件闘争を支持するか否かの点について討議した結果、一一四名の組合員中、賛成七二名、反対二名(その余は賛否の意見がなかつた。)の多数決によって右執行部案が支持されるに至つた。
(五) そして、同月二三日、二四日の両日にわたつて団体交渉が持たれ、結局、二四日の団体交渉において会社と組合との間で前記の協定が成立したが、ついに右席上においても指名解雇の場合の人選及びその基準が問題とされるようなことはなかつた。
右認定の事実関係からすると、会社と組合との間で本件人員整理に関して、被管理者の人数及びその男女の内訳並びに整理の方法(まず希望退職者を募集し、応募者が予定人員に達しないときは基準解雇又は指名解雇するという方法)について協議されたことは明らかであるけれども、希望退職者が予定人員に充たない場合にどのような基準で被解雇者を選択するかという点については、協議されなかつたといわざるを得ず、従つて申請人らに対する本件解雇については、会社と組合との間で労働協約第一〇条所定の一般基準の協議は結局なされなかつたというほかはない。
ところで、右協約が整理解雇の場合の一般基準について組合と協議し、慎重な態度をもつて決定すべきものとしている趣旨は、被解雇者の人選や選定基準の設定を会社側の一方的裁量に委ねるとこれら人選や基準の設定が会社の恣意に流れる虞れがあるため、これを抑制して組合側の利益擁護を図るために右人選や基準の設定について組合の意思を反映させる機会を組合に与えようとする点にあるものと理解される。
そこでこれを本件についてみるに、前記認定の事実からすれば、組合には右のような機会が十分与えられていたにもかかわらず、被解雇者の人選及びその基準を会社側に委ねて協議しようとしなかつた(むしろ、基準設定についての関与を回避したことさえ窺える。)というべきであり、このような組合の態度は、本件人員整理に当たり会社に対して経理資料等の開陳を求めないまま唯唯諾諾と会社の方針を受け入れてしまつた点と共に大いに問題ではあるけれども、組合において前記協議の機会を放棄したことが、会社側の妨害によるものであるとか、組合幹部の独断もしくは会社との共謀によるものであるとかといつたような特段の事情の存在しない本件にあつては、右解雇基準について協議がなされなかつたことをもつて、本件解雇が前記労働協約に違反して無効であるとはいい難い。
2 解雇権濫用の主張について
一般に解雇は、賃金のみによつて生存を維持している労働者及びその家族に対して重大な脅威を与えるものであるから、軽々に行なわれるべきでないことは勿論であるが、殊に本件の如き不況下における整理解雇の場合にあつては、労働者側に特段の「責に帰すべき事由」がないのに使用者側から一方的になされるのが通常であり、しかも不況下であればある程労働者の再就職は困難であつて解雇が労働者に及ぼす影響は更に甚大なものであるから、使用者が整理解雇をするに当つては、なお一層信義誠実の原則に従つてこれを行使することが要請されると解すべきところ、被申請人は、本件整理解雇は解雇権の正当な行使によるものである旨主張するので、以下この点について判断する。
(一) 前記認定事実、特にこれまで会社が講じてきた数々の不況対策からみると、会社が昭和五〇年一月の段階で、人員整理による或る程度の企業規模縮少の方針を打ち出したことは、会社の事業経営上一応止むを得ないことであつたと認めざるを得ない。
しかし、人員整理の人数が、果して全従業員の三分の一弱にも達する五〇名(管理職も含めると五八名)も必要であつたか否かについてはこれを確定するに足りる十分な疎明がなく疑問がないではない。けだし、右人員の決定は、前記のとおり単に昭和四九年一二月二九日時点における第二六期事業年度下半期の売上予測に基づいて算定される計算上の予想損失額のみを基準としてこれを割り出したものに過ぎないばかりか、人員整理の内訳を女子三〇名、男子二〇名としたのも、要するに女子従業員の多い製造部門の廃止、本社機構の充実に併せて高賃金女子従業員の整理を主眼としたということ以上に格別の理由はないように見受けられるからである。右の点に関連して看過し得ないのは、本件においては詳細な経理資料は勿論、本来対外的に公表することが義務づけられている貸借対照表、損益計算書等の決算関係書類が提出されていないことである。証人廣井克次は、決算関係書類は企業の過去における営業成績を示したものに過ぎず、将来の予測資料とはならないからである旨弁解しているが、企業の将来における収益力、安全性、成長度等を判断するに際し決算関係書類が欠くべからざる資料であることは多言を要せず、右証言は企業会計の基本原理をわきまえない見解といわざるを得ない。なお、<証拠>によれば、会社は昭和四九年一二月一五日時点において翌月に当たる同五〇年一月度の売上高について一億一七〇〇万円と予測していたところ、実は同月度には一億三六〇〇万円の実績売上があつたことが認められ、わずか一か月先の予測についてさえ二〇〇〇万円近くの誤差(二月度は七〇〇万円高、三月度は八〇〇万円減の誤差であつた。)を生ずるというような事実からみると、会社内部においてさえ決算関係書類その他の客観的経理資料を十分検討しないまま売上高減少の予測を立てていたのではないかが窺われる。もし十分に検討していたのであれば、必要以上に業績悪化を見込んでいたのではないかとの疑問の生ずる余地すらある。
もつとも、本件においては、前記五〇名の人員整理計画のうち、四六名分は希望退職によつてすでにその計画が達成されており、五〇名の予定人員に達しないことを理由に指名解雇されたのは、結局において女子三名(申請人田中ほか二名)、男子一名(申請人谷)合計四名であるから、重要なのはむしろ右四名の指名解雇の必要性であり、これは前記全体の人員整理の必要性とは別個の問題である。そして、以下に検討するとおり、本件解雇を含む右四名の指名解雇の必要性についても多分に疑問があるといわなければならい。
まず、本件人員整理の主目的は、前記認定のとおり不採算部門である会社の製造部門の廃止と高賃金女子従業員の整理にあつたのであるが(<証拠>によれば、同五〇年一月一六日付会社から組合宛の希望退職者募集についての申入れ書中にもこの点が強調されている。)、右四六名の希望退職によつてその目的はほぼ完全に達成されたのであるから、会社としては当初の整理予定人員五〇名の枠に固執して強引にこれが完遂を図るのではなく、指名解雇を極力回避する方策について慎重に再検討してみる必要があるものと解すべきところ、申請人らを含む右四名について、系列会社を含めての全体的規模での配転の可能性、或いは本件解雇に至るまで同五〇年一月にわずか一日実施されたに留まつた一時帰休、労働時間短縮、新規採用中止による従業員の自然減等の合理化の諸手段により会社内に吸引し得ないか否かを検討した形跡は全くなく、前日まで続けられた希望退職者募集によつて同五〇年二月一五日現在で予定人員に充たない申請人らを含む四名を即時に指名解雇したことは前記認定のとおりであるから、右解雇権行使の手続には信義則違反と評されても止むを得ない面がある。
さらに、<証拠>を総合すると、会社は、一方で不況対策に汲汲としていた昭和四九年一一月二七日の時点で、他方同日開催された株主総会において一八パーセントもの株式配当案(但し、同年四月一日増資の新株については九パーセント)を可決(配当金総額九四五万円)したこと、同五〇年一月頃には本件整理の退職金にあてるという名目で協和銀行から七〇〇〇万円の融資を受けたうえ、以降一年以内に右金員全額の返済を完了していること、会社は従業員に対し同五〇年七月に生活援助金として基本給の0.5か月分、経費削減協力金として0.3か月分の一時金を支給し、同年一〇月分の賃金から基本給の五パーセントを引き上げ、同年一二月の年末一時金として基本給の2.22か月分を支給し、同五一年四月分から基本給の一三パーセントの賃金引き上げをし、同年七月には夏季一時金として同年三月現在の基本給の1.8か月分の支給がなされており(右各支給の事実は当事者間に争いがない。)、右支給額は他の同種企業と比較して決して平均以下の額ではなかつたこと、さらに、同五〇年一一月には一〇パーセントの株式配当(配当金額七五〇万円)がなされたこと、以上の各事実が認められ、これは会社が右各支出を現実に負担する力もしくは多額の借入金についての信用度、担保余力を十分備えていたことを示すものであつて、本件解雇を含む右四名の指名解雇の必要性を阻却する事由というべきである。
(二) 本件解雇の必要性について多大の疑問があることは右にみたとおりであるけれども、さらに被解雇者として申請人らを選定したことに客観的な合理性が認められるか否かについても検討してみることにする。
被申請人は、申請人を含む四名の被解雇者を、女子については「年令二一歳以下か母子家庭かのいずれか以外の者」、また男子については「成績」という基準で選定したと主張するので考えてみるに、<証拠>を総合すると、被解雇者選定の経緯として次のような事情が一応認められる。
(1) 本件人員整理は五〇名の従業員を対象に実施されたが、当時会社には三三名の女子従業員が在籍し、総務部総務課に二名、同部経理課に三名、営業部に一名、管理部に一名、同部製造一課に一七名、同二課に一名、資材部資材課に一名、特機部技術課に二名、技術部品質保証課に四名、同部機工課に一名がそれぞれ勤務していたところ、会社としては、本件人員整理に伴なう機構改革後においても、庶務一般を担当させるために総務課に一名、コンピユーターのオペレーターとして経理課に一名、また製品のモデルチエンジ時における試作要員として製造課に一名の合計三名の女子従業員は最低限度必要であつても、その余の三〇名は平均賃金において系列会社の女子従業員のそれと比較して約二倍であることと、半数以上の者が製造課に属していたことから、製造部門の廃止に伴ないこの際全員を退職させることが妥当であるとの判断により、前記のとおり整理人員の内訳として女子三〇名という数字が打ち出され、その結果男子二〇名ということになつた。
(2) 然るに、前記認定のとおり昭和五〇年一月二八日の希望退職者募集期限までに女子については一〇名の者しか退職の申出をしなかつたため、その時点で会社側は、残留させるべき女子三名の者の人選にとりかかつたが、まず、総務課については現に在籍中の二名のうち一名は母子家庭の母親で小学生の子供を養育中であり、他は両親健在で年令二七、八歳の独身女性であつたことから、母子家庭の従業員を残すことにし、経理課については、現に勤務中の二名のうち年令の若い方の者(二一歳)を残すことにし、さらに、製造課及びその他の課に勤務する者については、その中から最年少の者一名(二一歳以下)のみを残し、他は全て退職させることにした。
(3) ところが、同五〇年二月一四日までに一四名の女子従業員が退職の勧奨に応じたことは前記のとおりであるが、最終段階に至るまで退職の申出をしなかつたために指名解雇された申請人田中を含む三名の女子従業員はいずれも、右のような人選の結果退職すべきものとされた。
(4) また、男子従業員についても、同五〇年一月二八日までに整理予定人員の半数に当たる一〇名の者しか退職の申出をしなかつたので、直ちに勧奨もしくは解雇によつて退職させる者の人選にとりかかつたが、これについては、退職者の員数を各課に割り振つたうえ、各課ごとに所属従業員の昭和四九年六月度及び九月度の実績評価票の評点を比較し、その評点の少ない者から右員数に充つるまで順次退職させていくという方法で退職者を選定することにし、他の事情は一切この人選に際して参酌しないことにした。
(5) ところで、右の実績評価票なるものは、労使双方から選出さた委員によつて構成される合同賃金専門委員会の答申に基づいて昭和四七年頃から作成されるようになつたものであつて、「仕事の正確さ」、「仕事の早さ」、「理解」、「積極性」、「企画力」、「報告」、「独創力」、「指導統卒力」、「折衝力」の九項目について一〇〇点満点の評点をつけ、合計点が九一点ないし一〇〇点の者をA(優秀)、六一点ないし九〇点の者をB(普通)、六〇点以下の者をC(努力を要す)という格付けがなされた。そして、その評価は、直属の課長が第一次の評価者、部長が第二次の評価者となつて、三か月に一度の割合が行なわれていたが、右評価はあくまでも各部ごとに相対的なものであつて、個々人の評価について全体的に調整されることもなかつた。しかも、右実績評価を実施する目的は専ら、賃金のうちの仕事給に加算すべき金額を決定するためであつて、評価Aの者は七〇〇円、Bの者は三五〇円、Cの者は〇円を仕事給に加算して支給することとしていた。
(6) 申請人谷については、昭和四九年六月度(同年四月一日ないし六月三〇日)及び九月度(同年七月一日ないし九月三〇日)の実績評価の評点はいずれも七六点であつて、当時申請人が所属していた開発部においては八名中最低点であつた(最高点でも八八点であるから、全員がBで三五〇円の加算を受けることになる。)が、同申請人が同年一月まで所属していた資材部においては、昭和四八年度中の実績評価の平均点はA(九一点以上一〇〇点まで)であり、それを基準として同四九年度の仕事給については七〇〇円の加算を受けていた。
以上のとおり認められ、<証拠判断略>。
以上認定の事実からすると、まず女子従業員に対する本件人員整理における整理対象者の人数を三三名中三〇名、としたことに十分の合理性があるかどうか疑問がないわけではない。けだし、本件人員整理の主眼であつた製造部門の廃止に伴ない、同部門に配置されていた女子全員が整理の対象とされたことは一応首肯しうるとしても、前認定のとおり製造部門(製造一課、二課)の女子は一八名に過ぎず、さらに一二名の女子を非製造部門からどうしても整理しなければならない理由については、単にその平均賃金額が系列会社の女子従業員に比して高額であるという以外には、とくに男子従業員との関係において相互の担当作業、業務の必要性といつた面からこれを裏付けるに足る適確な疎明が見当らないからである。右の点は暫くおくとしても、本件における女子従業員の被解雇者の選定にあたつて致命的と思われるのは、予じめ指名解雇の一般的基準が定立されていなかつたことである。
被申請人は、この点につき、まず三名の残留要員を先決することとし、予じめ「二一才以下か母子家庭」という基準を定立していた旨主張するのであるが、右主張に副う証人廣井克次、同山田正男の各証言はたやすく措信し難く、かえつて総務、経理、製造の三課においてそれぞれ一名宛各課ごとの特殊事情に応じて残留要員を決定したところ、右三名が結果的に右基準のいずれかに適合するに至つたに過ぎないことが<証拠>によつて明らかであるから、「年令二一才以下か母子家庭かのいずれか以外の者」なる基準は事後的に策定されたものと認めざるを得ないのである。
次に、男子従業員の場合には、前記実績評価、すなわち「成績」という基準があつてそれに基づいて申請人谷は被解雇者に選定されたようである。およそ、経営合理化という本質目的を有する整理解雇を行なうにあたつて、劣悪な労働力排除の観点から「成績」という企業に対する貢献度を主たる基準にすることは、抽象的には一応合理的ということができる。しかし、本件においていわゆる「成績」とは、具体的には前記実績評価票における一定時点での評点に過ぎず、いわゆる成績の評価に不可欠と考えられる勤怠状況、健康状態等は全く参酌されていないから、個々の男子従業員の能力、資質及び勤務状態を総合的に判断した結論を意味するものとは解せられない。しかも実績評価の運用も、前記のとおり仕事給に対する三五〇円ないし七〇〇円という僅少な差額の加算をするためにのみ行われており、それ以外に配転、昇進、昇給等の人事管理面においても具体的に活用されていたことを認めるべき適確な疎明はない。次にその評価要素も前記のとおり評価者の主観的、恣意的判断が極めて入り易いものであるばかりでなく、右評価自体も会社全体の立場から調整を行なう等評価の均衡に留意することなく行われるものであるため、申請人谷においても、同年度優秀の評点を与えられているにも拘らず、担当部署を変つただけで、半年足らずのうちに最低点を付けられるという事態が生じている。さらに、右実績評価の適用のし方においても、本件人員整理が各部門ごとの廃止ないし縮少という方針で行なわれたことに歩調を合わせて実績評価の相対比較も各部門ごとにその内部においてのみ行なわれ、会社を通じて統一的に行なわれなかつたため、整理人員の割当の多い部門においては評価Bの者でも整理の対象とされることがあつた(申請人谷もその例に洩れない)反面整理人員の割当の少ない部門においては評価Cの者(証人廣井克次の証言によれば、当時会社内には五名前後いたことが認められる。)で整理の対象から免れるという不合理な結果も生じ得ることとなつたのである。なお、評価の対象となる期間も、申請人谷については昭和四九年四月から九月までの僅か六か月間とされているが、同申請人が開発部に所属(同年二月)して未だ日が浅いというハンデイキヤツプを負つている点も考慮された形跡は見当らない。
以上の検討によれば、本件人員整理における被解雇者の選定は、解雇基準に基づかないか、基準自体もしくはその適用のいずれにおいても客観的な合理性を欠くものと断ぜざるを得ない。
これを要するに、本件解雇は、これを全体としてみるとそれを必要とするだけの緊急の事業経営上の必要性も存在せず、加うるに申請人両名を被解雇者として選定したことについても、これを相当と認めるに足るだけの合理性を認めることはできないから、申請人らに対する本件解雇の意思表示は右いずれの点からも解雇権の濫用として、その効力を否定されるべきである。
(大沼容之 最上侃二 羽田弘)